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EU AI Actの表示義務|日本企業が対象か確認する5つの場面と社内ルールの決め方

栗田 啓介株式会社MUKIAI 約10分で読めます
EU AI Actの表示義務|日本企業が対象か確認する5つの場面と社内ルールの決め方
目次(20項目)

EU AI Actの記事を読んで、「結局うちの会社は何をすればいいのか」が分からなくなった経営者は多いはずです。難しい条文の解説は多くても、自社の場面に当てはめた答えは見つかりにくいものです。特にEU向けに直接販売していない会社ほど、「自分は対象外のはず」と思い込みがちです。

結論から言います。自社サイトにAIチャットを置いている、またはAI生成の文章・画像を使っているなら、確認すべき場面は5つだけです。ただし、その5つに当てはまるかどうかは会社ごとに違います。

本記事は2026年8月15日時点の公開情報にもとづき、EU AI Actの表示義務の中身と、日本の会社がどこまで対象になるのかを順番に説明します。細かい条文解釈よりも、自社で今すぐ確認できる判断材料を優先してお伝えします。

EU AI Actとは?2026年8月2日に始まった「AIの表示義務」の中身

EU AI Actは、EUがAIのリスクに応じて段階的な規制をかける包括的な法律です。禁止AI・高リスクAI・透明性義務AIなど複数の区分があります。

区分ごとに適用時期も義務の中身も違うため、まず自社に関係するのはどこかを絞り込むことが大切です。中小企業の経営者が気にすべきは、高リスクAIの認定手続きではなく、日々の情報発信に表示が要るかどうかです。

この記事が扱うのは、そのうち第50条が定める「表示義務」だけです。高リスクAIの規則はまだ先の話なので、いったん脇に置いて構いません。

第50条は2026年8月2日にすでに適用が始まっています。AI生成物を機械が読める形で示す「マーキング」の対応だけは、2026年12月2日まで猶予期間が設けられています。

欧州委員会のFAQによると、違反した場合の制裁金は最大1,500万ユーロまたは全世界売上高の3%のいずれか高い方とされています。

数字だけ見ると身構えてしまいますが、対象になる場面はこのあと説明する5つに限られます。まずは自社が該当するかどうかを一つずつ確認していきましょう。

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AIの表示が要る場面は5つだけ|第50条が求めていること

第50条は、すべての生成AI利用に表示が要るわけではありません。義務があるのは次の5つの場面に限られます。

チャットボットから広告まで、業種を問わず当てはまる可能性があります。まずは一覧で押さえておきましょう。

EU AI Act第50条で表示が要る5つの場面を中心から広げて示した関係図
第50条で表示が要る5つの場面

1. 人と直接やり取りするAI|チャットボットは「AIです」と伝える

自社サイトにチャットボットを置いているなら、利用者が人と話していると誤解しないよう、AIですと伝える必要があります。表示は画面上の一言で足ります。

2. 生成AIの出力|機械が読める形でAI生成と分かるようにする

広告や記事にAI生成の文章・画像を使うときは、機械が読み取れる形式でAI生成だと示す対応が求められます。著作権の扱いは別問題なので、生成AIの著作権対策もあわせて確認しておくと安心です。

3. 感情認識・生体分類のAI|稼働していることを知らせる

採用面接や接客で感情を読み取るAI、性別や年齢を推定するAIを使う場合は、稼働中であることを本人に知らせる義務があります。

4. ディープフェイク|最初に触れる時点で開示する

顔や声を合成した映像・音声を扱うなら、視聴者が最初に触れる時点でAI生成だと開示しなければなりません。後から注記を足すだけでは不十分です。

5. 公共の関心事を扱うAI生成テキスト|人の編集確認が無ければ明示する

ポイント:ニュース性のある話題をAIに書かせて公開する場合、人が編集責任を持って確認していれば表示は不要ですが、確認していなければAI生成だと明示する必要があります。

欧州委員会のCode of Practiceは、この5つの義務を実務でどう満たすかの任意ガイドラインです。署名は義務ではありません。

5つの場面さえ押さえておけば、社内の生成AI活用すべてに表示が必要だと勘違いして、業務を止めてしまう心配もありません。

日本の会社はどこまで対象になるのか|「EUに支店が無い」で片づける前に

EU AI Actの第2条は、EU域外の会社でもAIの出力がEU域内での使用を意図されている場合には対象になり得ると読めます。ただし条文の細部までは確認できていないため、断定はできません。

「うちはEUに支店が無いから関係ない」と考える前に、次の4点を自社で洗い出してみてください。

  • 越境ECや海外発送を行っているか
  • EU圏の顧客・取引先から問い合わせを受けたことがあるか
  • 多言語ページやEU向けの広告を出しているか
  • EU拠点を持つ親会社・取引先から対応を求められているか

この4つのどれか一つでも当てはまるなら、対象外だと決めつけるのは早すぎます。

EU向けの直接契約が無くても、越境ECサイトからEU圏の消費者が購入できる状態であれば、対象になる可能性は残ります。

ベンダーから「EUの話なので関係ありません」と言われても、鵜呑みにしないほうが安全です。営業担当がAI Actの適用範囲まで正確に把握しているとは限りません。

最終的に対象になるかどうかは、個別の事情によって判断が変わります。自社の状況が気になる場合は、弁護士などの専門家に確認することをおすすめします。まず上記4点の事実関係を整理してから相談すると、専門家とのやり取りもスムーズになります。

EUとの接点を確かめる4つの質問を並べた図。1つでも当てはまれば対象外と決めつけない
EUとの接点を確かめる4つの質問

日本には今、AI生成の表示を義務づける法律が無い

ここまでEU側の話を見てきましたが、日本の状況も確認しておきます。

日本には2025年9月に全面施行されたAI法があります。内閣府のAI法のページを確認する限り、この法律は研究開発と活用の推進を目的とした法律で、表示義務や罰則の規定は本文からは見つかりませんでした。

AI法が目指すのは、規制よりも研究開発とビジネス活用の後押しです。罰則を伴う義務ではなく、国や自治体が事業者に協力を求める仕組みが中心になっています。

もう一つの手がかりが総務省のAI事業者ガイドラインです。第1.2版まで改定が続いていますが、法的拘束力のある義務ではなく、複数省庁がまとめた非拘束の実務指針という性格のものです。本編の細部までは確認できていません。

ベンダーから「日本は関係ありません」と言われることがありますが、それは国内に条文が無いという意味に過ぎません。

ポイント:日本にAI生成物の表示を法律で義務づける条文は、今のところ見当たりません。だからといって国内ルールが止まっているわけではなく、2026年改正個人情報保護法のように動き続けています。

法律が決めてくれない以上、表示するかどうかは会社が自分で決めるしかありません。この空白こそ、EUの5つの義務を先取りして自社ルールの土台にする理由になります。

今後、日本でも表示に関するルールが法制化される可能性はあります。先に自社の基準を持っておけば、制度が変わっても慌てず対応できます。

対応でつまずく3つの勘違い|罰則額だけ見て動くと外す

EU AI Actへの対応を考え始めると、最初の一歩で方向を間違えやすい場面が3つあります。

3つとも、EU側の数字や条文を読み込みすぎたことで起きる勘違いです。中小企業が実務で外さないための線引きを、順番に見ていきます。

勘違い1:制裁金の上限額から逆算して、いきなり体制構築を始める

最大1,500万ユーロという数字だけを見ると、専任担当やシステム導入から手を付けたくなります。しかし中小企業にまず必要なのは、体制構築ではなく自社のAI利用箇所の洗い出しです。

勘違い2:社内で使う生成AIまで全部表示が要ると広げすぎる

表示義務の対象は、前の章で見た5つの場面に限られます。社内資料の下書きにAIを使う程度なら、対外への表示までは求められません。範囲を広げすぎると、対応がそこで止まります。

勘違い3:公式導入のAIしか見ておらず、現場が個人で使っている分を数えていない

会社として契約したAIツールだけを棚卸ししても、社員が個人アカウントで生成した文章や画像は数から漏れます。シャドーAIの実態と対策も参考にして、現場の利用状況まで数えてください。

3つに共通するのは、数字や条文の細部からではなく、自社の利用実態から逆算して考える姿勢です。

ポイント:罰則額の大きさに気を取られず、まず自社でAIをどこに使っているかを1枚の紙に書き出すところから始めてください。

自社のAI表示ルールを1枚で決める6項目チェックリスト

最後に、ここまでの内容を1枚のチェックリストに落とし込みます。印刷して、そのまま埋めてください。

優先して埋める順番は、まず自社サイトのAIチャットボットの表示、次に広告や記事のAI生成物の表示範囲、最後に担当者と見直し頻度です。この2つの場面から決めると、残りの項目も埋めやすくなります。

このチェックリストは、EUの5つの義務をそのまま真似るためのものではありません。自社が実際に使っている場面だけを埋めれば十分で、空欄のまま残る項目があっても構いません。

確認項目自社の状況(はい・いいえ・未定)決めること
自社サイト・アプリのAIチャットボットに「AIです」と明示しているか
広告・記事・画像でAI生成物を使うとき、どこまでを「AI生成」と書くか社内で決めているか
SNS運用・広報担当がAI生成コンテンツを使うときの表示ルールを、口頭ではなく文書で共有しているか
EU向けに商品・サービスを出しているか、EU圏の顧客と接点があるかを一度洗い出したか
ディープフェイク的な加工(顔・声の合成等)をマーケティングで使う予定があるか、使う場合は開示の運用を決めているか
この一覧を「誰が」「いつ」見直すか(担当者・頻度)を決めたか

チャットボットの表示文言は「このチャットはAIが自動応答しています」のように、画面の冒頭で一言添えるだけで十分です。難しい言い回しを探す必要はありません。

表を埋め終えたら、社内ルールの作り方を参考に文書化し、情報漏洩対策とあわせて社内で共有しておくと、表示ルールが形だけで終わりません。半年後に読み返しても迷わないよう、決めた内容は日付を添えて残しておいてください。

ここまで読んで、自社はどこから手を付けるか決まりましたか

順番を間違えると、ツール代だけ払って誰も使わない状態になります。御社の状況をうかがったうえで、最初に着手する1業務を一緒に決めます。

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EU AI Actと自社の表示ルールについてよくある質問

Q1:EUに拠点も取引も無い会社でも対象になりますか

第2条は、AIの出力がEU域内での使用を意図されている場合に対象になり得ると読めます。ただし条文の逐語確認はできておらず、該当するかは個別事情によるため、弁護士への確認をおすすめします。

Q2:社内だけで使う生成AIにも表示は必要ですか

表示が要るのは第50条が定める5つの場面だけです。社内限定の利用なら基本的に対象外ですが、出力を社外向けの文章や画像に使った時点で対象になり得ます。

Q3:AIで下書きして人が書き直した文章は「AI生成」と書くべきですか

公共の関心事を扱う文章は、人が編集責任を持って確認していれば対象外と読めます。線引きに迷う場合は、無理に判断せず表示する側を選ぶ会社が多いです。

Q4:日本の法律ではAI生成の表示は義務になっていますか

内閣府のAI法ページ本文に、表示義務や罰則の記載は確認できませんでした。AI事業者ガイドラインも非拘束の実務指針であり、法的な義務ではありません。義務が無いからこそ、自社のルールを先に決めておく意味があります。

まとめ|EU AI Actを口実に、自社のAI表示ルールを1枚決める

EU AI Actの対象かどうかを白黒つけるより先に、自社がAIをどこで使い、どこまで表示するかを決めておく方が実用的です。判断に時間をかけている間も、現場ではAIの利用が広がっています。曖昧なまま先送りにするより、決められる範囲から着手する方が結果的に早く片づきます。

対象になっても困らない状態を先に作っておけば、日本の法律が今後どう動いても、そのまま対応の土台になります。制度の白黒より、自社の運用を先に固める方が近道です。専門家の判断を待つ間も、この土台があれば安心できます。

まずは前章の6項目チェックリストを、担当者と一緒に埋めてください。チャットボットの表示、広告・記事のAI生成物、この2つから手をつけると進めやすいです。

最初から完璧な文書を作る必要はありません。今の運用を1枚にまとめるだけでも、社内で表示の基準がそろい、担当者が迷わなくなります。残りの項目は、慣れてから少しずつ埋めていけば十分です。次に見直す日を、今日のうちにカレンダーへ入れておくと安心です。

チェックリストを埋めたら、それで終わりにせず、誰がいつ見直すかも一緒に決めておきましょう。自社の場合の判断に迷う方は、お気軽にご相談ください。

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